著作権法第37条では、視覚障害、学習障害などの発達障害、肢体不自由、その他の障害を理由として、通常の書籍を利用することが難しい児童生徒(以下、「視覚障害等のある児童生徒」という。)に対する場合に限り、公表された図書や資料を必要な方式により複製して提供することができます。学校図書館は、こうした複製が法的に認められているものの一つです。
「必要な方式」には様々なものが考えられます。例えば、日本図書館協会の差別解消に関するガイドラインの「障害者サービス用資料」の項目の中には、大活字本、音声DAISY、録音された朗読音声(「カセットテープ」と書かれています)、マルチメディアDAISY、テキストDAISY、テキストデータ、点字資料、布の絵本、LLブック、アクセシブルな電子書籍などの形式が示されています。学校図書館は、元の図書や資料を著者や出版社に許諾を得ずに複製して、これらを作成することができます。
日本図書館協会では、著作権法第37条第3項での複製についてのガイドラインを公開しています。障害のある人に向けて、著作者の許可を得なくても複製ができる範囲について詳しく知りたい方は、ぜひこのガイドラインをお読みください。
ただし、障害のある人にとって読みやすい書籍を既に出版社が販売している場合には、複製ができない場合があります。こちらも詳細は日本図書館協会のガイドラインをご覧ください。
MP3などの音声データは、例えば携帯型の音楽プレーヤーやスマホなどでも再生して「聞いて読む」ことができるので、紙の図書の文字を読み進めていくことが難しい障害のある児童生徒に便利な形式の一つです。
公表された紙の図書や資料をPDFなどの電子データにすることで、例えば以下のような支援ができます。
一般的には、図書の版面をスキャンして、OCR(光学文字認識)機能のあるソフトウェアを使い、テキストデータに変換します。OCRの際、認識の間違いなどが混入することがあるので、間違いをなくしたい時には、人間が校正作業を行うこともあります。
テキストデータを作ると、一般的なコンピューターが備えている音声読み上げ機能や、スクリーンリーダーと呼ばれる画面読み上げソフトウェアを使ってコンピューターに音声として読み上げさせ、耳で聞いて読むことができます。
所蔵している図書や資料をスキャンした画像から、
上記の1と2、または1〜3の全てを組み合わせて、マルチメディアDAISYや、EPUBと呼ばれる形式の電子書籍を作ることができます。
点訳(てんやく)とは、通常の文字を点字に置き換える翻訳作業です。「点図」と言って、挿絵や図を触ってわかりやすい点の集まり置き換えることも行われます。点字プリンターがあれば、図書館で点字の本を印刷することもできます。点訳の技術を備えた学校図書館が世の中に増えていくと素晴らしいですね。
通常の図書や資料の版面を単純に拡大コピーするのではなく、フォントサイズの大きな文字で作り、見やすくレイアウトされた書籍は、弱視などの障害のある児童生徒にとって、読みやすく楽しめる読書につながります。
「わかりやすい本」や「LLブック」は、例えば知的障害のある人々にとっても内容が理解しやすくなるように、わかりやすい言葉や内容で作られた本です。視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者が利用するために必要な方式により、元々の図書や資料を複製し文章をリライト(翻案)することも、可能です。
布を使って手の感触で触って読むことのできるようにした本は、「布の本」と呼ばれています。視覚に障害のある子どもたちに向けて、布や材質の感触の違いで挿絵の部分を表現した本を作っておられる図書館やボランティアの方々もおられます。
一冊全部を複製してしまうことに心配を感じられる方もおられるかもしれませんが、視覚障害等のある児童生徒が利用するために必要と認められる限度であれば、一冊全部も複製することも、何ら問題はありません。
著作権法第37条に基づいて、図書や資料を複製してさまざまな形式の書籍を提供することは、学校図書館に対して認められています(著作権法施行令第2条第1項第1号へ)。また、学校図書館の司書教諭や学校司書の管理の下であれば、作業を行うために、ボランティアやアルバイト、他の教員の力を借りても全く問題ありません。
学校図書館ではない、ボランティア団体等が独自に複製等を行いたい場合は、以下の文化庁のページに詳しい説明があるのでご覧ください。https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/1412247.html
ただし、以下のことに注意しておきましょう。
まず、図書や資料の目録を整備して、自校の学校図書館に所蔵しているものであることをはっきりさせておきましょう。
次に、障害のある人にとって読みやすい書籍を既に出版社が販売している場合には、複製ができない場合があります。どのようなケースが該当するかについて、詳細は日本図書館協会のガイドラインの9の(3)をご覧ください。
A. デイジー以外の方式のバリアフリー図書として市販されているものでも、視覚障害等により読むことに困難のある児童生徒が利用するために必要と認められる限度において、著作権法第37条の規定によりマルチメディアデイジー図書を作ることができます。
A. 視覚障害等により文字を読んだり読んだ内容を理解することが難しい児童生徒に、わかりやすくリライトする際に役に立つガイドラインがいくつかあります。下記リンクを参照してみてください。
「図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン」(日本障害者リハビリテーション協会)
「わかりやすい情報提供のガイドライン」掲載ページ(全国手をつなぐ育成会連合会本人活動支援委員会)
「わかりやすい情報提供のガイドライン」PDFリンク(全国手をつなぐ育成会連合会本人活動支援委員会)
「読みやすい図書のためのIFLA指針(ガイドライン)改訂版」(IFLA)
「わかりやすさ」をつくる13のポイント」(書籍)(一般社団法人スローコミュニケーション)
A. 著作権法第37条による利用のためであれば、その図書館の蔵書にもできます。この場合、原本の教材や教科書の購入は不要です。ただし、当該の書籍について、障害のある人にとって読みやすい形式のものがすでに出版社から販売されていて、かつそれが当該の児童生徒が利用するために必要な方式であれば、購入して提供しましょう。
A. 詳細検索から、音声デイジー、マルチメディアデイジー、点字資料、LLブックなど資料形態の絞り込みもできます。みなサーチで蔵書を検索してみると、検索結果で蔵書館の確認ができます。オーディオブックなど購入可能なものについても外部リンクの案内表示があります。なお、障害のある人にとって読みやすい書籍を既に出版社が販売している場合(ダウンロード販売も含みます)、それが当該の児童生徒が利用するために必要な方式であれば、図書館が著作権法第37条に基づいて図書を製作することはできません。市販の書籍を購入して提供してください。もしくはその児童生徒自身が購入して利用することになります。
A. 著作権法第37条第3項に基づく同法施行令第2条第1項第2号の規定により視覚障害者等のための複製等が認められる法人(ボランティア団体等)の名称、代表者の氏名及び連絡先等の情報につきましては、SARTRASのウェブサイトをご覧ください。
著作権法第37条により学校図書館が複製・製作した図書や資料は、視覚障害等のある児童生徒の用に供する目的であれば、例えば、
に貸し出し(提供)することができます(著作権法第38条第4項、第47条の7)。
その際、以下のことに注意しておきましょう。
障害者手帳や医師の診断書は必須ではありません。もし、ある児童生徒について、通常の図書や資料を読むことの困難があるかどうかを、学校図書館では判断することが難しい場合には、他の教員の力を借りると良いでしょう。学校内には、特別支援教育コーディネーターや通級指導教室の担当者、特別支援学級の担任、特別支援学校教諭免許状を所持している教員、養護教諭、公認心理師や臨床心理士などの資格を持つスクールカウンセラーなど、特別支援教育に関する知識の豊富な教職員がいます。
学校図書館は、著作権法第37条により、USBやCD-ROMなどの媒体に入れて障害のある利用者に渡すだけではなく、「公衆送信」といって、メールに添付して送付する、インターネット経由・学校内や自治体内のネットワーク経由・クラウド経由で送付することなども認められています。送付先がしっかりと確認・管理されていれば、自信を持って公衆送信が認められていることを活用してください。
ただし、インターネット等を通じて不特定多数がアクセスする場所に複製した図書のデータを置くことはできません。複製した図書等が流出しないように、細心の注意を払いましょう。学校や自治体内のネットワークのフォルダに置く場合にも、アクセス制限をかけるなどして、不特定多数がアクセスできないように注意しましょう。
なお、学校の授業で必要とされている図書や資料を使用する場合には、そもそも障害の有無に関係なく、著作権法第35条で、その必要と認められる限度において複製することが認められています。その限度であれば、同じ学級に所属している児童生徒に、必要な部分を複製して渡すことができます。ただし、著作権法第35条に基づいて「公衆送信(インターネット経由でのオンライン授業もここに含まれます)」を行う際には、相当額の補償金の支払いが必要です。詳しくは、授業目的公衆送信補償金制度をご覧ください。
著作権法第37条がはっきりと認めている複製を学校図書館が行う際に、毎回毎回、学校長や教育委員会に許諾を得ることは、現実的ではありません。
そこで、学校図書館でこうした複製を法に認められる形で行っていることを、校長先生に報告して共通理解を作っておくと良いでしょう。また、必要に応じて、校長先生から教育委員会に伝えておいてもらうことも、読書バリアフリーを地域に広げていくためにも、意義のあることです。
今、ご覧になってくださっているこのウェブページも、著作権法だけではなく、読書バリアフリー法の理念を学校社会に広げるために作られたものです。文部科学省は、子どもの読書活動推進の取り組みもおこなっています。読書バリアフリー法や障害者差別解消法の理念もあいまって、障害の有無に関わらず、読書活動が広がる学校を作る機運の高まりを、学校関係の多くの人に知っていただきたいですね。
A. 児童生徒が著作権法第37条の対象者に該当するのか判断の助けになるのが、日本図書館協会のガイドラインです。ぜひご覧ください。
A. 特別支援教育コーディネーターや特別支援教育に携わる教員が判断される場合や、学校長や司書教諭など学校図書館を管轄する責任者が判断される場合など、さまざまな対応が考えられますことから、学校内における判断方法を確認するようにしましょう。
また、過去に事例がなく、校内のみで該当有無の判断に迷う場合は、特別支援教育コーディネーターや教育委員会等を通じて巡回相談を活用する等、校外の対応・判断事例も参照し、当該児童生徒に対し適切な方法で確認・判断を行っていくことが重要です。
A. 日本図書館協会の「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」のチェックリスト別表2のチェックリストを活用できます。こちらのチェックリストで、いずれかに該当すれば、対象者と判断することができます。
A. 著作権法第37条に基づいて製作した図書・資料については、視覚障害者等であり同条の対象となる者のみ利用できるもののため、対象でない者のために利用することはできません。
A. 同じ教室内で視覚障害等のある児童生徒とそうでない児童生徒がいる場合、視覚障害等のある児童生徒のみが、著作権法第37条に基づいて製作された図書を利用できます。
A. 同じ教室内で視覚障害等のある児童生徒とそうでない児童生徒がいる場合、視覚障害等のある児童生徒のみが、著作権法第37条に基づいて製作された図書を利用できます。
A. 著作権法第37条に基づいて複製された図書や資料(問題集などの副教材も含まれます)は、通常の形式の図書や資料を使うことが難しい、視覚障害等のある児童生徒にのみ提供が認められています。
視覚障害等のない他の児童生徒も含めた授業目的での複製については、著作権法第35条でその必要と認められる限度において複製することができます。詳しくはQ.2-4「障害のある児童生徒が、障害のない生徒と同じ学級にいた場合は、複製した資料を使うことはできますか?」を参照してください。
A. 図書館目録に掲載して司書教諭や学校司書によって管理をしましょう。一般の教員や児童生徒が自由に閲覧できるような状態とならないよう、学校管理下にあるということが大切です。そのような管理がなされているのでしたら、問題ありません。
A. 文部科学省の読書バリアフリー法リーフレットの他、日本図書館協会の「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」、著作権に関する書籍は「JLA図書館実践シリーズ26『障害者サービスと著作権法第2版』」が参考になります。ぜひご覧ください。
「読書バリアフリー法リーフレット」(文部科学省)
「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(日本図書館協会)
「JLA図書館実践シリーズ26『障害者サービスと著作権法第2版』」(日本図書館協会障害者サービス委員会・著作権委員会共編/印刷版2021年1月、アクセシブルな電子書籍版=EPUB形式2021年5月)