写真1. Eさんの教室での学び方を教えていただきました!机に教科書やiPadを並べて学習している様子です。
写真1. Eさんの教室での学び方を教えていただきました!

Eさんの読みの困難さについて

・Eさんは、脳性麻痺による体幹の機能障害と、学習障害の診断を受けています。漢字など細かい文字が見えにくく、また書きづらい困難さがあります。

・中学生の頃、担任から「本人は理解しているのに、テストで成果が出ない。何かあるのかな?」と指摘され、病院で見る力や読む力に関するアセスメント(WAVES、CARD等)を受検し、学習障害の診断を受けました。

・細かい文字は見にくいため、Microsoft Wordでは、フォントサイズ18以上に指定して、見やすくしています。


以下、Eさんご本人のコメントからまとめさせていただきました。

音声教材利用までの対応

・小学生の頃は、肢体不自由の特別支援学級に在籍していましたが、授業はほとんど通常学級で受けていました。

・読みの困難さへの対応として、授業ではまず拡大教科書を利用していました。

・小学4年生の頃に、担任と相談してWindowsパソコンを自分のものとして購入しました。主に家庭での予習のために利用していました。小学6年生の頃にデイジー教科書の存在も知り、中学校でも使用してみましたが、通常学級の一斉授業の中でついていくのが大変だったため、拡大教科書と紙の教科書をメインに学習していました。

・中学生の頃に学習障害だと分かり、診断を受けた病院の言語聴覚士や作業療法士の方に、ICTを活用した学習に関して、色々アドバイスをもらいました。

・目より耳からの学習の方が得意と分かったので、他にも、学校でデジタル教科書を使ってみたり、教科書を裁断してPDFやWordにして和太鼓を使用したり、国語や英語の朗読CDも試しました。


教科書の朗読CDについて

・国語の朗読CDは学校で借り、英語の朗読CDは自分で購入しました。英語の朗読CDは、英語の先生が授業の時に購入の申し込みプリントをみんなに配布していました。学年が変わると、そうしたお知らせはなかったので、直接英語の先生に購入したいと頼みに行きました。

・英語の勉強をしたいからという理由でほしいと伝えると意欲関心態度の評価にもつながりやすいので得しかないのでお勧めです。

【事務局追記】教科書の出版社が販売している教科書朗読CDは、通常一般販売はしておらず、購入を希望する場合は、学校経由で教科書販売店を通す必要があります。朗読CDの利用を希望される方は、学校の先生に相談してみましょう。


AccessReadingの利用をはじめたきっかけ

・AccessReadingの音声教材は、高校1年生の頃に使い始めました。家族からiPadをもらい、中学3年から使い始めたのですが、高校でも教室で使えるようになったので、iPadを教室でも使用しています。

・デジタル教科書は学校の先生が使用する指導者用のものだったので、小学校の時は問題なく使用していたのですが、中学校になると指導者用のデジタル教科書にはテストに出る問題の資料やヒントになりそうなものが掲載されていることがあったため、デジタル教科書は使えなくなりました(特に数学理科社会)。

・デイジー教科書は、中学の教科書は全てあったので中学では使っていました。デイジー教科書は高校の取扱いがなかったので、高校からAccessReadingです。高校見学の時から、少しずつ使用する教科書は確認していました。


他の音声教材との比較

・デイジー教科書やデジタル教科書、国語の朗読CDなど色々試しましたが、学校の先生が用意してくださったので、指導者用のものだったり、操作の複雑さなどもあり、一斉授業についていくのが大変でした。

・高校では、AccessReadingの音声教材をiPadにいれて、教室や家庭で利用しています。紙の教科書と見た目は違いますが、単純なので、扱いやすいです。


音声教材導入までの流れ

・高校で使用する時は、1年生の担任に相談したら、すぐに「いいよ」となりました。入試でも拡大などの配慮を受けていたため、他の教員やクラスメイトなど周囲から何か指摘されることもありませんでした。

・担任に利用希望を伝えたら、他の授業で使っても担当教員から何も指摘されることはなかったので、担任から他の教員に伝えてくれていたのだと思います。

・ネット回線については、LTE対応のiPadのため、学校のWi-Fi等は利用していません。何か先生とデータのやり取りをしたいときは、例えばGoodNotesのデータはAirDropを使ってやりとりしています。


学習に使用しているもの

・学校では、iPad。アプリはブック、GoodNotes5と、メモは軽い板書の時にたまに使用しています。

・教科書は2冊購入し、1冊は裁断してPDFにして、そちらも活用しています。裁断する教科書は、担任の先生が学校で裁断してスキャンしています。情報や商業の検定教科書については、改訂がなく、学校にストックがあるものについては、学校のものを裁断してもらえることもあります。

・普段のノートテイクは、紙のノートに手書きして提出しています。あまりノート提出がないものは、GoodNotes5を利用しています。100円均一のペンで入力しています。板書はそれでとっていて、入力が間に合わない時は、AirDropで先生がデータを送ってくれます。先生は指導ノートをプロジェクターで映して板書代わりにしており、その指導ノートをいただいています。GoodNotes5だとページが膨大になり、紙だと少しの量で終わるので、使い分けています。

・家庭ではWindowsパソコンもありますが、iPadの方が使いやすいため、あまり使っていません。

・学校の補習のため、塾にも通っていますが、そこでも音声教材を活用しています。

・OCR機能があるiOSアプリよむべえも使用したことがありますが、あまり使っていないです。


学習方法

①音声教材
・音声読み上げ機能は、学校でも家庭でも、文章の量で使い分けています。国語はがっつり聞いて、数学も長い文章問題だと音声読み上げ機能を使います。1行くらいであれば、自分で読みます。
・ブックのマーカー機能はけっこう使います。授業が終わったあとに、ページにしおりをはさむ機能も活用しています。
・また、iPadでテキストを選択すると表示される「調べる」から、辞書を引く機能も、よく活用しています。
・EPUB版の音声教材は、教科書原本のPDFと見た目が大きく違うため、見出しなど同じ見た目になると、授業中探しているところが見つけやすくなるなと思います。でも単純なところもいいかなと感じています。


②ノートテイク
・GoodNotesの切り取りがとても便利。問題を切り取って、ノートに貼っています。PDFからだけでなく、EPUBからでもできるといいなと思っています。スクリーンショットで対応することもあります。

写真2. EさんのGoodNotes5のファイル。
写真2.EさんのGoodNotes5のファイル。自分で作成したノートは、表紙にタイトルを大きめの文字でつけて区別しやすくしています(画像内の「電卓」など)。

・それから、GoodNotes5では同時にいくつかファイルを開くことができるので、テスト課題と対策ノートのファイルを作り、見比べながら問題を解いたりノートに書き込んだりしています。

写真3. EさんのGoodNotes5の複数ウィンドウの様子。答案用紙のファイルと解答のファイルを同時に並べています。
写真3. EさんのGoodNotes5の複数ウィンドウの使い方例。問題と解答用紙を並べられると便利です。

③単語学習にフラッシュカード機能を活用
・友達とGoodNotes5のフラッシュカード機能を使って、英単語の学習などに役立てたりもしています。PowerPointのスライド機能でも、同じように問題と解答を作ることもしています。

写真4. GoodNotes5のフラッシュカード機能の例。
写真4. GoodNotes5のフラッシュカード機能の例。問題文呈示後に回答の表示ができ、「簡単」「ちょっと難しい」などの感想も選ぶことができます。単語学習やクイズを出し合う時に便利です!


紙のプリントへの対応

・先生が配布する紙のプリントは、141%拡大して受け取っています。GoodNotes5のデータでもらえる授業もあります。


データのやり取り方法について

・iPadのAirDropで、GoodNotes5のデータをやり取りしています。


試験や合理的配慮について

・就学前から、地域で初めてということが多く、前例づくりをしてきました。

・入試のためには前例がいると経験から分かったため、小学生の頃から試験用紙は141%拡大をしていました。

・高校入試の時は、中学校の校長や担任が協力してくれました。県の教育委員会にはたらきかけ、配慮申請の書類と学習障害の診断書の提出を求められ、話し合いました。はじめは代読も全文読み上げを希望しましたが、漢字や英単語など、本人が分からないところまで読み上げてしまう可能性があると指摘されたため、分からないところを隣にいる支援員に指定して読み上げてもらう形になりました。他には時間延長1.5倍、別室受験、用紙の拡大141%の配慮を受けての高校入試になりました。

・今の学校生活では、用紙の拡大、支援員の配置、車いすの利用についてなど配慮を受けています。

・高校での定期考査などでは、別室受験、時間延長(10分)、用紙の拡大で、試験官が代読をしてくれています。

写真5. Eさんの座位保持いすと車いす、座席の配置などの様子。
写真5.Eさんの座位保持いすと車いす。座席は教室の一番前の廊下側にあり、車いすは座席近くの廊下に置いています。 机と座位保持いすは、小学校の頃に地域で購入されたもので、車いすは自分のものを使用しています。


写真6.机と手すりの様子。
写真6.机は高さ調節ができるもの。手すりは座席近くと廊下側のドアにあります。手すりは担任の先生の提案で、2年生の時に学校がつけました。


AccessReading事務局コラム「学習時の姿勢保持について」

学びの支援を考える時に、教材だけでなく、「姿勢」にも注目すると、学びやすさにつながるケースがあります。

いすに座っていても、姿勢が崩れてしまうといったことでお困りのケースも多いかと思います。脳性麻痺だけでなく、発達障害等の方の中にも、体幹機能の困難さがある場合があります。

姿勢が崩れてしまうと、集中して学習に取り組みにくいですし、疲れやすくもなってしまいます。こうした姿勢の崩れは、児童生徒本人では気づかないこともあります。

学習や作業(図工、家庭科、ハサミ、絵画、習字等)の前に、まず児童生徒の姿勢はどうか、体幹のサポートは必要か、周囲の大人が気にかけてみてほしいと思います。


姿勢を保持するためには、机やいすの工夫やクッション、座位保持椅子、ベルトで腰や胸を固定するなど、様々な方法があります。用途や場面に応じて、児童生徒本人と使い心地を試してみてください。

以下、考えてみていただきたいポイントを3点あげてみました。


①机やいすの工夫を考えてみましょう。

両肘が乗せられるくらい大きな机を使用すると、肘でも体幹の支えにすることができるようになります。

読むことに困難のある児童生徒の場合、拡大プリントやタブレット等、授業中に使うものも多いです。

大きな机には引き出しがないこともありますので、別に棚を用意することで、机周りもスッキリできます。

また、良いいすを利用することも、疲れの軽減につながります。例えばゲーミングチェアなども、長時間机に向かうことができるよう、良く考えられています。ひじ掛けのないいすの場合でも、ジャンボレストなどのアームレストを使うと、疲れの軽減になるかと思います。


②クッションにも選択肢があります。

クッションに使用される素材は、ウレタンフォーム、ゲル、空気、それらの組み合わせなどが代表的です。

硬さが違えば姿勢保持や動きの補助具合も変わってきますので、移動場面なのか、学習場面なのか、目的に応じて使い分けも考えてみましょう。


参考リンク:公益財団法人テクノエイド協会(http://www.techno-aids.or.jp/)
「車椅子を知るためのシーティング入門-小児から高齢者まで使える-」
41-42ページ目「③車椅子用クッションの選定」「④車椅子用クッションの種類と性能」
http://www.techno-aids.or.jp/research/vol24.pdf


③相談先も確認しましょう。

姿勢保持をアシストする用具の活用には、主治医や理学療法士・作業療法士などのリハビリの専門家に相談してみることも大切です。

購入に公的制度を利用できる場合もありますので、ぜひ専門家に相談してみましょう。

特に学校で姿勢保持や支援用具の活用に不明な点がある場合は、本人や保護者に「家庭ではどうしていますか」「相談できるところはありますか」と確認し、家庭での実践や医療や福祉からのアドバイスを得ていくことも重要です。


学校、家庭だけでなく、医療や福祉との連携も、環境を整えていくうえで重要なポイントになります。

支援資源をうまく活用しながら、よりよい学習環境を整えていきましょう!


音声を利用しての学習をしてみての変化

・小学4年生頃から、音声を利用して学習を始めてみましたが、成績が上がりました。

・AccessReadingを使ってみて、学校でも利用できたことと、音声読み上げ機能が使えたことで、紙の教科書より学ぶ負担が減り、授業にもついていきやすくなりました。デジタル教科書は起動に時間がかかり、電子黒板に写すものだったこともあり、紙の教科書と雰囲気がちょっと違って困ることもありました。


検定試験対策

・情報処理検定やビジネス文書実務検定などは、検定の名前の後に「過去問題」といれて検索すると、過去問や解答の電子データを入手できることがあります。一部の検定試験については、下記のサイトにまとまっています。入手したPDFは拡大して使用したり、読み上げが必要な時はWordに変換してから、それをWordの和太鼓の機能を使って読み上げしています。


公益財団法人全国商業高等学校協会
http://www.zensho.or.jp/puf/


・授業で過去問をやる時は拡大をしてもらうのですが、拡大が足りない時などは、タブレットで検索してデータをダウンロードして授業に持っていっています。

・商業や情報処理などの科目を専攻していると、高校で関連する参考書を多数入手することになります。検定対策参考書には、検定試験の過去問はほとんど掲載されています。でも語句などの確認は紙媒体の参考書にしか掲載されていないので、これから勉強する人は注意してください。

・教科書の問題も、インターネットで教科書出版社を調べると、ホームページからダウンロードできることもあります(一部できないものもある)。そこから持ってきて対応しています。

例:実教出版ホームページの「教科書・副教材」から「商業」を選択すると、ページ下部にて、教科書シラバス、教科の補充資料、副教材のワークシートなどをダウンロードできます。


AccessReading事務局コラム「配布物のデータについて」

これらのwebサイトで公開されている資料について、Microsoft Word形式の場合は、和太鼓やWordTalker、イマーシブリーダーなどで音声読み上げや見た目の調整が可能です。

PDFの場合、音声読み上げや見た目の変更調整などに対応していないこともあるため、Wordへの変換やテキスト抽出など一工夫必要になることがあります。

GIGAスクール構想により、学校でもオンライン環境が整ってきています。紙のプリントをデータで共有する機会も増えてきています。

データで配布物を共有する時は、音声読み上げに対応しているか、見た目の変更調整はできるのか等にも配慮した上で、児童生徒と共有できるとよいでしょう。Wordのデータがある場合はそのまま渡すなどが良いかと思います。



写真7. Eさんの教室の様子。
写真7.Eさんの教室の様子。学習環境を整えることは大切ですね!

音声教材を利用しての感想

Eさんから
音声で聞くことで、理解が深まって楽に授業を受けられるようになりました。音声良かったです。



Eさんの保護者からいただいた感想
音声教材を知れたのは良かったですが、知るのが少し遅くなったので、もっと早く知ることができるよう、すべての学校に知らせておくことで、もっと早く辿り着けたのではと感じています。
そうすれば、もっと早く楽になったと思うので、広く学校に知ってほしいです。



Eさんの学校の教員からいただいた感想
タブレットを使うことで、授業中にご本人が教材や板書の見にくいところを個別にサポートする必要がなくなったり、提出物のやり取りを円滑に行え、楽になりました。



Eさんから、音声教材の利用を考えている後輩へのメッセージ!

躊躇なく自分が特別とか思わずに、普通に恥ずかしがらずにしっかり使って行った方が後からどんどん楽になるので、恥ずかしがらずに学校でも使っていくといいと思います。

小学校の時、みんなが授業を受けている中、自分だけパソコンでちょっと恥ずかしかったけど、もっとちゃんと使っていれば、もっと早く楽になれたのかなと感じています。


参考:Eさんが学習で使用しているアプリ、ソフト、役に立っているものの紹介

①ブック

 

iPadに標準搭載されているアプリです。
AccessReadingの音声教材のEPUB版を使用する時にも使うアプリです。
ブックの機能として、音声読み上げの他、テキストを選択すると、黒い吹き出しからハイライトを入れたり、メモを入力することができます。

 

図.テキストを選択すると表示される黒い吹き出し


②GoodNotes5

 

ApplePencil等を使って手書きでメモを書いたり、PDFやWordなどのドキュメントを読み込んで注釈を付けたりできる、iPad/iPhone/Mac用ノートアプリです。紙のノートと同じように自由に閲覧・書き込みができ、PDFのテキストや書いた文字も検索できるなど、便利な機能が多く備わっています。撮った写真をノートに貼り付け、その上に手書きすることも可能です。


③Microsoft Word

 

仕事や学校で書類やレポート、報告書などの作成に幅広く使われているソフトです。ページに文字を単に入力するだけでなく、豊富な図形描画機能やグラフ作成機能なども備えています。
AccessReadingの音声教材のDOCX版を使用する時にも使うソフトです。非常に多機能なため、自分に合った見え方の調整や、ノートテイクにも便利です。