「読むのは難しいけれど、聞いたら理解できる。だから、このやり方でやりたい!」教材のデジタル化が一気に進んだのは、子どもの発言からの出発です。個別最適化した学習を進めていく上では、教師側の思いや考えだけではなく、児童との合意形成が必要と考えます。児童のアセスメントとその指導方法の工夫を常に行いながら、最も大切にしてきたのは児童と今の状態を共有し続けること。「あなたはどう思う?」「どうしたい?」と子どもの声に耳を傾け、児童と教師が信頼できる関係性を構築し、必要な支援を自分で求められるようにしていきたいです。
八木東小学校では、特別支援教育ニーズのある児童への個別指導において、タブレットによる音声読み上げやキーボード入力を活用しています。学習障害等を背景にして、読み書きに特別支援ニーズのある児童が、自立して読み書きができるように指導することを目指してICTを活用しています。指導では、まず、紙と鉛筆での読み書きの苦しさではなく、タブレットを活用することで「学ぶことは楽しい」と体験的に感じられるように工夫しています。本人の意欲を土台にして、語彙力を高めたり、音声読み上げを使って通常の学級で授業を受ける上で、身につけておくべきスキル(例えば言葉のきまり等の、本人が覚えておくべき基礎的・基本的な学習事項)の習得に進むことができています。
八木東小学校では、保護者の理解を得た上で、特別支援教育コーディネーターと通常の学級担任が連携して、読むことに特別支援教育ニーズのある児童のために、単元テストを音声で読み上げて受けることができるようにしています。単元テストの電子化は、著作権第37条第3項で認められた例外措置に則って、学校図書館が主体となって行いました。これまで、国語・理科・社会の単元テストの電子化を実施しており、児童の評価に使用しています。こうした取り組みは、学校内のいろいろな先生方との交流や相談によって、実現できていると考えています。本市はWi-Fiの校内環境もよく、校内のどこでもタブレット上のロイロノートが使えたり、校内研修が充実していて、通常の学級でも他の学級でどのような利用がされているかを交流しながら実践できていることも、背景のひとつにあります。読み困難のある児童本人は、「読む」ということに関して、本人は漢字が読めないだけと思っていましたが、問題文を聞いて解くことを繰り返すうちに、「自分の力でできた、ひとりでできた」と大きな自信になり、「今後もテストはこの形で受けたい」と自分から求めるようになりました。
著作権法第37条第3項により、学校図書館は、読みに特別支援教育ニーズのある児童生徒が利用できる形にするために、図書や教材を電子化することができます。そこで八木東小学校では、学校図書館で市販の単元テストを電子化し、内容を音声で聞いてテスト受けられるようにしたデジタルデータを作成しました。具体的には、PowerPointのスライドに単元テストをスキャンした画像を貼り付け、本文や問題文の部分に、音声読み上げソフトで作成した音声データを貼り付けたものを作成しています。タブレットの画面上で児童が読み上げたい文をタップすると、その部分の音声が流れるように設定しています。検定教科書については、DAISY教科書等の音声教材など、あらかじめ電子化されたものを学校が入手して利用することができます。しかし、教科書以外の資料や副教材、市販の単元テストなどは、あらかじめ電子化されたものがなく、学校で作成する必要があります。八木東小学校では、単元テストの作成に、著作権上の問題がないように、学校図書館が関わりながら実践しています。このことは、業務負担の分散の意味でも、学校がひとつのチームとして特別支援教育にあたることができている意味でも、意義があると考えています。
八木東小学校は、京都府総合教育センターが実施している、ICTを活用した読み書きに困難のある児童生徒への指導・支援に関する研究プロジェクトに、京都府内の他の学校とともに参加してきました。本校の学校図書館が作成・管理する単元テストの電子化作業には、作業の手間もかかります。そこで、研究プロジェクトへの参加で培った地域でのつながりを生かし、京都府総合教育支援センターのコーディネートを受けて、京都教育大学の学生ボランティアによる作業(著作物の複製作業)の支援が得られるように枠組みを整えました。複製作業の依頼文書も、同センターがコーディネートしてくださり、以下の文書を使用して、依頼できるように整理しています。
この仕組みのコーディネートには、京都府総合教育センター特別支援教育部の千種朋子部長が中心となり、同センターの研究プロジェクトの助言指導に長年関わってこられた近藤武夫教授(東京大学先端科学技術研究センター)と、「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」にも委員として参加されている佐藤 聖一さん(公益社団法人日本図書館協会障害者サービス委員会委員長)、ボランティア支援を実現してくださった相澤雅文教授(京都教育大学総合教育臨床センター長)の連携により、実現できたと伺っています。児童本人が感じている「読む」「書く」に関するハードルが下がり、本人の能力が発揮できる環境を作ることで、学習内容の定着に目を向けた指導や工夫ができるようになります。校内の支援体制を確立した上で、学校と地域が連携して、子どもたちに支援が届く環境が継続できるように、今後も工夫していきたいと考えています。