「すべての人を本の世界へ!」。開館時からの声と点字の図書館のキャッチフレーズです。障害や病気、高齢などで「本」や「図書館」から取り残されている多くの人たちが、手軽に気軽に「読書」にアクセスできる、そんなサービスを目指しています。また、「読書バリアフリー」を広げていくためには、多くの人に関心をもってもらうことや、眼科医療機関をはじめ、読書が困難な人が多く関わる機関等との連携・協力がとても重要だと考えています。
高知県高知市にあるオーテピアは、オーテピア高知声と点字の図書館(1階)、オーテピア高知図書館(2~4階)、高知みらい科学館(5階)の複合施設として2018年にオープンしました。このうち、オーテピア高知声と点字の図書館は高知市立の点字図書館で、オーテピア高知図書館は高知県立図書館と高知市民図書館本館を一体化した公共図書館です。オーテピア高知声と点字の図書館とオーテピア高知図書館は複合施設というメリットを生かし、役割分担して読書バリアフリーを推進しています。
オーテピア高知声と点字の図書館では、視覚障害者等のために「著作権法」第37条にもとづき複製された点字図書やデイジー図書などの特定書籍・特定電子書籍を中心に扱い、オーテピア高知図書館では、誰でも利用できる大活字本やLLブックなどの市販のアクセシブルな書籍を中心に扱っています。また、読書を支援する機器類についても、拡大読書器や音声読み上げ装置などの視覚障害者が利用しやすい機器を中心に配置したオーテピア高知声と点字の図書館に対して、オーテピア高知図書館にはページめくり機やパソコン操作支援機器など肢体不自由者等が利用しやすい機器を中心に配置しています。こうした分担を図ることで、オーテピア全体として、さまざまな障害のある人の読書ニーズに対応できるよう工夫しています。
オーテピア高知声と点字の図書館は、オーテピア自体のエントランスホールとシームレスにつながっています。そして、エントランスホールとつながるスペース、つまり誰もが気軽に入れるスペースに、点字図書、デイジー図書、大活字本、LLブックなどの書籍や拡大読書器、音声読み上げ装置などの機器を置いて、自由に体験できるようにしています。
前館長の坂本康久さんは、オーテピアの建設にあたって、「当事者以外の方にも読書バリアフリーに関して周知や理解を進めていけるスペースを作りたいと考えました。声と点字の図書館が当事者だけしか入れない特別な場所ではなく、誰もが気軽に入れるオープンなスペースにしたい。そのため、ドアや間仕切り的なものをつくらず,エントランスとできるだけ一体感を持つようにしました」といいます。
オーテピア声と点字の図書館では、高知県眼科医会と連携して、眼科クリニックのロービジョンケアのなかで患者に図書館の利用を紹介してもらう取り組みをしています。以前からイベント開催などの際に眼科医会と連携・協力を行っていました。そうした縁もあり、高知県内でロービジョンケアのネットワークを構築する準備の段階から、そのメンバーにオーテピア高知声と点字の図書館も参加することになりました。現在、ルミエールサロン(視覚障害者向け機器展示室)、高知市障がい福祉課、高知県立盲学校とともに、オーテピア高知声と点字の図書館は、県内のロービジョンケアの談窓口の1つとなっています。そして、主に読みたい、調べたい、情報を知りたいニーズへのサポートを担っています。県内の眼科クリニックからオーテピア高知声と点字の図書館への紹介件数は、2020年が19件、2021年が9件、2022年が12件でした。
(執筆:野口武悟)