今まで何度も「読みに困難を持つ子への音声図書の貸し出し」に挑戦してきましたが、端末の問題や、準備の問題、対象児童の独立した読書環境の問題などで、手応えがあっても継続できないことが続いていました。2021年に、国立国会図書館にわいわい文庫が収蔵され、学校図書館に「視覚障害者等用データ送信サービス」を導入して貸し出していただけるようになったこと、整備された一人一台端末で読むことできるようになったことと、ソフト面・ハード面での条件がそろったことで、読みたいものを読める情報として自分のペースで読むことができる環境を、やっと整備することができました。その後、このシステムは、市内の学校図書館でも活用が広がっています。読むことに困難がある子たちがどの学校にもいることが分かってきた今、すべての学校図書館で、こうした紙以外の本にアクセスできるようになってほしいと願っています。
学びにくさのある子への支援にかかわってきて、読むことに困難があるからこそ、読書が大切だと感じる場面はとても多く、なんとか学校図書館には「紙の本」しかないのが「あたりまえ」といった環境を変えたいと思ってきました。そのため、音を補っての読書支援など、さまざまな取り組みを行ってみましたが、関わっていた職員が転勤すると、継続した取り組みにならなかったり、オーディオブックは予算を付けることが難しかったり、特別なものを使って、特別な手順でする読書に対してハードルを感じている子もいました。
「選ぶ」楽しみが持てて、アクセスがスムーズで(予算も端末も)、読書記録としても残って、紙の本と同じ評価が受けられる、そんな音の支援のある読書環境を目指して、荒島小学校では、図書館と連携し、後述の視覚障害者等用データ送信サービスを活用しながら、1人一台端末を活用しての取り組みをスタートしました。
荒島小学校図書館では、他にもリーディングトラッカーの貸し出しや、わかりやすいイラスト付きニュース(ドロップニュース)のループ再生展示、マルチメディアデイジー図書の児童の個人端末への貸し出しなど行っています。どんな子でも「読みたいものを読んで楽しむ」ことが日常になり、継続したシステムとして運用できることを目指しました。
荒島小学校図書館では、わいわい文庫などマルチメディアデイジー図書やオーディオブックの貸し出しにあたって、学校図書館を国立国会図書館の「承認館」にするための申請やChattyBooksのアカウント作成を行いました。国会図書館のホームページにある「視覚障害者等用データ送信サービス(図書館等向け案内)」のページから、申請様式をダウンロードし、①視覚障害等用のデータ送信承認申請書、②設置根拠を明記した文書、③図書館の活動状況がわかる資料の3点を準備しました。申請から1ヶ月程度で導入・活用できるようになりました。
児童が読みたい本を選びカードに書いて学校図書館に提出し、アップロードされた書籍データを個人端末でダウンロードして読書し、読了後は学校図書館へカードを提出するだけという、至ってシンプルな運用のため、特別支援学級の低学年児童もすぐに一人で手続きができるようになりました。
マルチメディアデイジー図書やオーディオブックの活用で、読みたい図書の内容を音で聞いて読めるようになりました。
職員研修等での働きかけにより、島根県の送信承認館16館のうち、8館が安来市の学校図書館です。公共図書館でも視覚障害者等用データ送信サービスが導入され、活用が広がっていることから、児童が卒業した後も公共図書館で同様に利用することができます。どんどん国会図書館からの貸し出しを利用することで、「このサービスを必要としている子がたくさんいる」ことを示していくことが、読書バリアフリーの広がりにつながると考えています。学校図書館で親しんだ読書の方法や本へのアクセスの手立ては、大人になっても公共図書館で利用できるものです。それは、紙の本では読むことの困難が大きな子たちにとっても同じだと思います。生涯にわたって読書を楽しんでいくために、学校図書館のバリアフリー化を今後も進めていきたいです。