りんごプロジェクトは、学校、図書館、イベント会場、福祉施設などで、さまざまなバリアフリー図書(デジタルを含むアクセシブルな本)を一度に体験できる場づくりや、読書バリアフリーの研修会・出張授業・講演活動などを行っています。活動のきっかけは、アクセシブルな本がすでに世の中にあるのに、多くの人が知らない、多くの読書に困難のある当事者も使ったことがないという事実を知ったことです。そこで、大活字本、LLブック、点字つき絵本、布の絵本、デイジー図書などアクセシブルな本を紹介するとともに、読書の多様性を体験できる「りんごの棚」を、全国の図書館などに普及する取り組みを行っています。活動の目的は、読書や図書館利用に困難のある人々が、自分の読みやすい読書方法を獲得し、情報入手・生涯学習につながるきっかけを作ることと、多様なニーズに対応し公平性や公共性の高い情報拠点としての図書館をもっと増やしていくことです。本を通じてインクルーシブな社会を具体化し、誰もが読書・情報にアクセスできることを目指しています。
りんごプロジェクトでは、小中学校、高校・大学、特別支援学校のほか、図書館やイベント会場、福祉施設やサークル活動など、さまざまな場所で読書バリアフリーやアクセシブルな図書に関する出張授業や体験会を行っています。これまで日本国内約80カ所以上で開催してきました。実際にLLブックや点字つき図書、マルチメディアデイジーなど手に取ってもらい、リーディングトラッカーなどの読みの支援機器も体験することで、自分や人それぞれに合った読み方があることを知る機会になっています。
体験会で読書に困難のある子どもたちが自分にとって読みやすいカタチの本と出会い、積極的に読書を楽しむ姿に、周囲の大人が驚かれることがあります。アクセシブルな本について知らない人が多く、“本が読めない、読みづらい”という理由で、子どもたちの学びの機会が失われてしまうことは、とてももったいないことです。今はそれを補う技術やサービスがあります。多様な読書方法をもっと知ってほしい、アクセシブルな本とインクルーシブな図書館が日常にある社会となるよう、この活動に取り組んでいます。
りんごの棚は、1993年にスウェーデンで「読書に困難のある子どものための棚」として誕生し、現在も同国内のすべての公共図書館に設置されています。りんごプロジェクトでは、このりんごの棚を「読書の多様性にふれる棚」と考えています。読書に困難のある子どもには、自分に合った読書スタイルを見つける入り口となり、そうでない子どもには多様な読書方法を知る機会になります。また、学校司書が読むことへの支援を必要とする子どもを見つける手助けにもなり、教員や特別支援教育コーディネーターと連携しながら支援していくことにもつながっていきます。学校図書館では、渋谷谷区立神南小学校、横浜市立大道小学校、横浜市立矢向中学校、横浜市立本牧南小学校(掲載写真順)など、各地の小中学校でりんごの棚を作る取り組みが広がっています。
学校図書館だけでなく、川越市小川町立図書館、埼玉県立久喜図書館、渋谷区立中央図書館などの公共図書館や、葛飾区亀有にある、公民連携で運営している子どものための図書館「絵と言葉のライブラリー ミッカ」にも、りんごの棚はあります。読書に困難のある子どものためだけでなく、大人を含めたすべての市民の方の目に留まりやすいところに設置をお願いしています。読書に困難のある子ども向けの本だけでなく、さまざまな年齢の方の「読みたい」にこたえる棚として、りんごの棚が活用されることに期待しています。
りんごの棚は、設置することがゴールではなく、「すべての人が自分に合った方法で読書を楽しめる環境をつくること」の第一歩です。例えば教育現場の場合、4月に司書教諭や学校司書による学校図書館ガイダンスで、読書バリアフリーについて知る教材として活用されたり、「総合的な学習の時間」で、読書方法の多様さを学んだ上で人権について深く考える授業にも発展するなど、さまざまな教育の場面で活用されています。公共図書館などでは、すべての市民に知ってもらい、読書に不安のある人につなげていってもらうという考え方で、読書バリアフリーの普及に役立っています。りんごの棚は、単なるアクセシブルな本の棚ではなく、読書を通じて多様性や共生について考える大切な場として、各地で育っています。→りんごプロジェクト活動報告
上述の体験会や研修会を開催した際に、横浜市教育委員会事務局生涯学習文化財課の方が見学に来てくださったことをきっかけに、横浜市教育委員会と連携したアクセシブルな図書の普及活動に取り組んでいます。横浜市教育委員会主催の読書活動推進ネットワークフォーラム「よこはま読書パーク」や、図書館総合展にも出展し、読書バリアフリーの実現に向けた啓発活動を積極的に行っています。その他の具体的なアクションとして、りんごの棚や読書バリアフリーについて解説した書籍を刊行したり、「超福祉の学校」という先進的な福祉や共生社会を学ぶイベントでは、読書バリアフリーに関するシンポジウムも開催し、オンラインでアーカイブ配信も行っています(超福祉の学校2024シンポジウム動画)。実際にりんごの棚を作ってみたというお声をいただく機会も多くなってきました。私たちは、日本中の公共図書館が学校や福祉施設などと連携し、障害のある人だけでなく、誰もが使いやすい図書館が増えるよう、これからも活動していきます。